大切な人の思い出だけがない世界

博士の愛した数式

博士の愛した数式

数字と記憶障害と阪神タイガースを組み合わせた、世にも不思議な物語です。
ですが、ある一人の選手が登場しないために、私はこの物語を読み返すことが出来ないでいます。

時系列からいえば、登場しないのはむしろ当然なのです。
でも、それでも。
著者の小川洋子さんがどのように取材をし、その素材をどのように料理したのかはわかりません。ですが、その人が登場しないために小川洋子さんは阪神タイガースファンではないということがすぐにわかるし、おそらく取材した相手もある例外を除いて、阪神タイガースのファンではけしてないでしょう。

その例外とは、登場しない選手その人に取材した場合、なのですが。

1992年の阪神タイガースを代表する選手は、新庄選手ではない。
亀山選手でもない。
仲田投手でもない。
中込投手でも、湯船投手でも、パチョレック選手でも、オマリー選手でも、真弓選手でも、八木選手でもない。

もちろん、中村監督でもない。
ほかの誰でもないのです。それなのに。

私が読み落としただけでしょうか。
その人の名前は、この物語の中には一度も出てきませんでした。