後世の日本人たちへ

西暦二千七年ももうすぐ終わろうとしておりますが、日本は平和でかつてない繁栄を謳歌しております。
第二次世界大戦に破れ、アメリカ合衆国(United Stats of America 1776-)の属国のように成り果てておりますが、国民のほとんどはそのようなことに屈辱も、窮屈さも感じてはおりません。
天皇陛下は国の象徴としておわします。国民のほとんどは、テレビジョンを通じてではありますが天皇陛下のご尊顔を存じております。科学技術の発展の賜物であり、また一方で帝政(立憲君主制)でありながらそれを自覚しないという珍しい国民性によるところも大であります。
国民の間には法的な身分さは存在せず、貧富の差もほかの時代に比べれば驚くほど小さくなっております。国民すべてが物質的、経済的に豊かで、「メタボリック症候群」などという、いわゆる飽食病がはやるほどです。
朝鮮人民民主主義共和国を除けば隣国とはおおむね友好関係にあり、ロシアや韓国と若干の国境問題を抱えるほかは江戸時代をはるかにしのぐ平和を享受していると言っても過言ではありません。軍艦を海外に派遣しておりますが、侵略目的ではけしてなく、外交政策の一環だとご理解いただければ間違いではありません。

世界有数の経済大国となり、人口も一億人を超えましたが、それでもなお、今の日本人たちは幸せではありません。
多くのものが夢を失い、少しずつ忍び寄る衰退の兆しにおびえながらくらす日々です。
盗みを働いたり、人をあやめたりするものが後を絶ちません。時には飢えて老人が死ぬということも起こっております。働いても働いても貧しいままの者や、働きすぎた挙句死に到る者、絶望し自ら命を絶つものも少なくありません。

あるいは私たちが今生きている時代を理想とし、この時代への回帰を目指す方もおられるかもしれません。
私たちは、あなた方がどのような時代に生きているかを想像することができませんがしかし、それはお勧めできません。
私たちの時代を、過去の繁栄を省みるぐらいなら、現状を維持するための方策に走るか、未来をよりよく生きるための計画を立てることをお勧めします。

人はいくら豊かになっても、満たされることのない生き物なのです。
私たちはその時代に生き、それゆえにそれを知っています。
この時代には、幸せな生活があったはずなのです。
しかし、それを謳歌できたのはやはり、一握りの人間に過ぎぬのです。
私たちはやがて苦難のうちに死ぬでしょう。
あるいは、私たちの子供や、孫がそのような目にあっているかもしれません。そして、それがあなた方かもしれません。

これだけは信じてください。信じられないとは思いますが。
これだけ先人の努力のおかげで繁栄し、後世の幸せのほとんどを吸い尽くしたように思える私たちの時代でも、不幸な人はいたし、恵まれた人はごく一部に過ぎないのです。