MLB・デトロイト・タイガースにたとえてみる

「タイムだ」
リーランドはアンパイアを一瞥し、ゆっくりとした歩みでマウンドに向かう。アンパイアはそれを見てマスクをはずし、両腕を上に広げた。
ボールパークに張り詰めていた緊張感が一瞬、ゆるむ。

マウンドにはすでにパッジが駆け寄っている。ケーシーはピッチャーのケツをどやしつける。インジは言葉にならない謝意を示す。
彼のミスで、もうすでに終わっているはずのイニングがまだ続いている。
気にするな、とポランコは言う。後ワンアウトだ、誰かがつぶやく。

「力いっぱい投げろ。お前のストレートは100マイルを越える」
相貌は厳しいままで、しかし自信にあふれた声でリーランドは言う。
ざわめき続けるスタンド。その音はあちらこちらに響いて、マウンドを取り囲んでいるのに、彼の声はベンチからだって良く届くのだ。
「ランナーは気にするな。お前とパッジ相手にベースを盗もうとする奴なんていない。いいか、ジャスティン。コントロールなど気にするな。お前のストレートで投げちゃいけないところなんて、ストライクゾーンのどこにもないんだ。大切なのは、まっすぐを力いっぱい投げることだけだ」
「イエッサ」
小さくうなづくピッチャー。リーランドは、ジャスティン・バーランダー……100マイルの速球とその冷静なマウンド裁きが身上のルーキーの細い体躯に、一つ一つエネルギーを充填してゆく。
「パッジ」
「わかっている。まかせてくれ」
「俺のところに打たせろ。こんどは絶対にミスしない」
「そのとおりだ」
「クールにいくぜ」
「ちょっと寒すぎるけどな」
吐く息は白い。ゲームはタイガースのナインにとっては少しホットになりすぎている。
だが。
「ゲームはまだ始まったばかりだ」
「OK」

ゆっくりと輪が解かれる。
ゲームがまた、始まる。