なるべく直訳

「ちょっとりせき」
「あい」
ディスプレイに文字が流れ、ボクはため息を小さく吐く。
一時間にどれだけの経験値を稼いだかを「時給」などと言うが、これほど時給のいいパーティーは久しぶりだ。
どこの誰かもわからない、かりそめの仲間が6人。出会って二時間経ったか経っていないかぐらいだ。
この戦いが終われば、サーバの仮想世界のどこかでまたあうことすら、まれだろう。
「もどり」
プレイヤーの一人がパソコンの前を離れ、用を足し、戻ってきた。
「おk?」
「おk」
日本語入力のまま”OK”とタイプしていく仲間。人によっては"k"で済ませてしまう。
全員そろったようだ。戦いがまた始まる。
「TPいくつ?」
「100%」
「んじゃ、開幕で」
「あい」
必殺技が使えるだけのエネルギーがたまっているから、戦闘が始まったらすぐに必殺技を使い、大ダメージをモンスターに与えることになった。

「2」
「あい」
6人の仲間一人一人に役割がある。
パーティーが野営するところに、モンスターをおびき寄せる役。
おびき寄せられたモンスターを引き寄せ、ほかのパーティーのメンバーをモンスターが攻撃しないよう身体を張る役。
メンバーの体力を回復する役。
ほかのメンバーに守られながら、ひたすらモンスターのHPを削る役。
ほかのメンバーの能力を上げる、サポート役。

「2」とは、おびき寄せに失敗し、二匹以上のモンスターを同時に相手しなければいけなくなったことを知らせる、仲間への警告。
緊張が走る。
だが。
なぜかボクは、こいつらならうまくやってくれると信じることが出来た。
歌が響き渡る。魔物達のララバイだ。二匹きたうちの一匹を眠らせておいて、そのうちに残りの一匹をやっつけてしまおうという算段だ。

メンバーが散開する。
おとり役のメンバーが駆け抜ける。
遅れてやってくるモンスターが二匹。ララバイの効果が発動し、眠ってしまう。
あちこちから響く、戦士達の抜刀の音。

戦いがまた、始まった。
たぶん、そのときのボクは微笑んでいたはずだ。